日本義務教育学会設立趣意書
義務教育における学校種間の連携・接続の在り方については、古くは46答申(昭和46年6月)において、小中学校の区切り方を変えることによって各学校段階の教育を効果的に行うことの必要性が指摘されている。しかし、その後も具体的な改善が十分になされない状況が続き、小・中学校の文化の違いや児童生徒の身体的・精神的発達状況の変化等により、中学校入学時に不必要な不安や戸惑いを感じたり不登校になったりするなどの問題が顕在化してきた。
こうした状況の中、15年ほど前から東京都品川区や広島県呉市など一部の自治体が構造改革特区制度などを活用し、小学校と中学校の教育を別々に考えるのではなく、小中学校を貫く「九年生義務教育の場」という概念で、学校を捉え直す取り組みを始めた。
こうした取組みは国の検証作業でも学力の定着・向上や生徒指導上の課題克服に一定の効果があると認められ、平成17年10月の中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育を創造する」では、義務教育に関する制度を見直し設置者としての判断で義務教育学校を設置することの可能性やカリキュラム区分の弾力化、学校間の連携・接続を改善するための仕組みについて検討する必要があることが指摘されるに至った。さらに、平成18年の教育基本法改正とそれに基づく平成19年の学校教育法改正により義務教育の目的・目標が定められたのである。
この頃には全国で多くの自治体が、施設一体型あるいは施設分離型の小中一貫教育の取組みを展開し、平成18年度には「小中一貫教育全国連絡協議会」が開催され、小中一貫教育法制化に向けた機運が高まった。また、国も教育振興基本計画や中央教育審議会の初等中等教育分科会において小中学校間の連携強化や小中一貫教育の制度化に向けた検討を進め、平成26年7月の教育再生実行会議の第5次提言では、小中一貫教育学校(仮称)を制度化し柔軟かつ効果的な教育を行うことができるようにすることが提言された。そして、平成27年6月に教育基本法の一部が改正され、義務教育学校が法制化されたのである。
しかし、義務教育学校の実際の運営にあたっては、9年間を見通したカリキュラム開発をはじめ、教員養成・採用・研修、人事制度や教員定数、施設・設備など検討すべき課題が多く残されている。
こうした課題に学校現場や大学、研究機関、行政の関係者が一体となって取り組み、小中一貫教育を真摯に推進する自治体や学校を支え、その広がりをより確かなものにしていくため、ここに「日本義務教育学会」を設立することとした。
今こそ、我が国を取り巻く様々な課題を克服していく有為な人材を育てるため、義務教育の学びや、教育行政の支援について、これまでに得られた知見を活かしつつ、未来志向型の研究を専門的・具体的に進め、我が国の教育の質を更に高めていくことを期待するものである。
平成28年11月26日